さて、そんなお話をした2日後のちゅうりっぷ小学校。

「おはよう、氷河」

ロシアのお友達は、瞬ちゃんの声を聞いてびっくり仰天してしまいました。
「しゅ……瞬、その声はいったい… !? 」

「氷河と一緒でしょ♪ 僕も声変わりするんだよ、きっと」
ロシアのお友達に負けず劣らずのがらがら声で、瞬ちゃんはとても楽しそうに言いました。

ロシアのお友達は大ショック。
瞬ちゃんの声がカミュ先生のような野太い声に変わるなんて、ほんの一瞬想像しただけでも、ロシアのお友達はとても嫌な気持ちになったのです。
それが現実のことになってしまったら、“とても嫌な気持ち”を通り越して、“死ぬほど嫌な気持ち”になるに違いありません。

けれども、瞬ちゃんは、自分がロシアのお友達と同じオトナになれることが嬉しくてたまらない様子です。
「これで氷河とおんなじオトナだね」
なーんて、がらがら声でにこにこしながら言うのです。

ロシアのお友達は、嫌な気持ちが高じて、自然に顔が歪んできました。

「氷河、どうしたの? 具合い悪いの?」
珍妙な顔をしているロシアのお友達に、ナイチンゲール瞬ちゃんが優しく手をのばしてきます。

その時。
ロシアのお友達は、いきなり瞬ちゃんを抱っこして、脱兎のごとく走り出しました。

「こらっ、廊下は走っちゃいかん!」
脇役の先生の言葉なんか、ロシアのお友達の耳には入りません。
校内をものすごい速さで駆け抜けて、ロシアのお友達が着いた先は保健室。

まるで音速を超えた戦闘機が墜落したような音を立てて蹴り倒されたドアと、はぁはぁ息を荒げて瞬ちゃんを抱っこしているロシアのお友達に、保健室の先生はちょっとびっくりしてしまったようでした。
けれど、ロシアのお友達の腕の中にいる瞬ちゃんの様子を見て、保健室の先生はすぐに事情を察してくれたのです。

「具合いが悪いのね。早くお入りなさい」

そうです。
瞬ちゃんは風邪をひいていたのです。
それで声が枯れてしまっていたのでした。

「ちょっとお熱もあるみたいね。今年の風邪は喉にくるみたいなのよ」

先生の言葉を聞いてちょっと安心したロシアのお友達は、すかさず、ベッドに横たえられた瞬ちゃんの手を握って看護の態勢です。

けれど。
保健室の先生は、愛する瞬ちゃんを心配するロシアのお友達の気持ちまでは察してくれませんでした。
「あなたはもう教室へお帰りなさいね。もう1時間目が始まるわよ」
と、優しい口調ながらも、きっぱり。

それでも瞬ちゃんの側を離れずにいたロシアのお友達は、保健室の先生から通報を受けた学年主任のカミュ先生に(カミュ先生もちょっと昇進したのです)、5年生の教室へ連行されてしまいました。

カミュ先生に襟首を掴みあげられ、ずりずり廊下を引きずられながら、ロシアのお友達は、
「……そっか、良かった」
と、小さく呟きました。



中華キャノン発動前の、微妙な季節のお話です。






【menu】【next chapter】