「氷河、痛かったでしょう、よく我慢したわね」 「…………」 愚痴ひとつ口にせず、無言で頷くロシアのお友達に、マーマは心中涙を禁じ得ませんでした。 愛のために苦難を耐え忍ぼうとする我が子を励ますために、マーマは無理に明るく言ったのです。 「でも、今から瞬ちゃんに、氷河のむにゃむにゃに慣れていてもらえば、将来が楽しいわよ! だから、我慢しなさいね!」 マーマはいったい何を考えているのでしょう。 ロシアのお友達は、マーマの考えていることがわかるようなわからないような、なんとも中途半端な気持ちで、首を横にぶるぶるぶるると振りました。 「え? どうしたの? どうして?」 ロシアのお友達は、不思議そうな顔で首をかしげるマーマに、ほんの少しの間を置いて、その事実を告げたのです。 「瞬が抜いたのは」 「抜いたのは?」 「……………………スネ毛」 「……………………………」 マーマは落胆のあまり声を失いました。 そして、 「まああああ、そうだったの〜!」 無理に笑いました。 それから、なんだか気が抜けて、 「……………………………」 最後に、 「けけけけけけけ〜」 と、奇妙な雄叫びをあげ、ばったり倒れてしまいました。 大人になるって、当人はもちろん、周囲の人間も、ほんとにとっても大変なことなんです。 |