「私はただ、そろそろ瞬ちゃんと大人のお付き合いを始めたら? って言っただけなのに、氷河ったら、大声で怒鳴りつけてくるのよ。もう、私の手には負えないわ。瞬ちゃんから何とか言ってやってちょうだい……!」

「な…なんとか……って?」
瞬ちゃんは、マーマの言葉に、ほっぺだけでなく耳たぶまで真っ赤です。

「だから、そろそろ大人のお付き合いを始めましょうよ、って」
「あ…あの……あの、でも……」

瞬ちゃんは、ロシアのお友達と1つ違いですから、もうとっくに反抗期に入っていてもいいお年頃。
けれど、根が素直な上、不安や不満の全く無い毎日を送っているせいで、瞬ちゃんには、未だにその兆候が現われていませんでした。

ですから、瞬ちゃんが、いつものようにマーマにすぐに『はい』と言わなかったのは、決してマーマに逆らおうとしたからではありません。
瞬ちゃんはただ、恥ずかしかっただけなのです。

けれど、ロシアのお友達の言動にショックを受けていたマーマには、そんなことすらわかりません。
「瞬ちゃんまで、私の言うこときいてくれないの……」

瞬ちゃんがいつものように素直に頷いてくれないので、マーマはさめざめと泣き出してしまいました。

「ち……違うんです、マーマ、泣かないで…! ただ、僕……あの……」

もちろん、瞬ちゃんは、氷河とならいいと思っているんです。
氷河以外の誰のことも、瞬ちゃんは考えていませんでした。
でも、瞬ちゃんは、それを自分から言いだすのは恥ずかしかったのです。

とても、とても、恥ずかしかったのでした。



悩める瞬ちゃん、中1の春。
ロシアのお友達と瞬ちゃんには、果たしてどんな“オトナのお付き合い”が待っているのでしょうか……。






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