「うあ!!??」
「ひ……氷河っ !? 」

瞬ちゃんの押したスイッチは、工場の印刷工程のデモンストレーションのためのものでした。
ロシアのお友達の、ものすごーく嫌な予感は、見事に的中してしまったのです。

立っていた場所がまずかったのでしょう。
あっというまにクレーンに吊り上げられたロシアのお友達は、瞬ちゃんの頭の3メートルも上の空中で、お洗濯物のようにぶらぶら揺れることになってしまったのです。

「ご…ごめんね、今、下ろすからっ!」
「瞬……」
ロシアのお友達は、また、微かに嫌な予感を覚えました。

そもそも、ロシアのお友達は、厳しく過酷な自然環境の中で生まれ育ってきました。
小さい頃の遊び場といえば大雪原に大氷原。
クレバスを飛び越えたり、氷山で跳び箱をしたり、流氷を渡り歩いたり──サバイバルな遊びで慣らしてきたロシアのお友達の肉体能力・運動能力はかなりのものでした。

ですから、ロシアのお友達は、たかだか3メートルかそこいらの高さから飛び下りるのなんか朝飯前のお夜食前。
ロシアのお友達は、瞬ちゃんにそう言おうとしたのです。
瞬ちゃんに変なスイッチを触られるよりは、自力で飛び下りた方がずっと安全そうでしたしね。

なのに……。
ロシアのお友達は、またしても一瞬出遅れてしまったのです。
ロシアのお友達が瞬ちゃんに何か言うよりも、瞬ちゃんがクレーン操作のボタンに手を出す方が早かったのです。

当然のことですが、クレーンは下におりてくるどころか、上下左右に振り子運動したあげく、逆に2メートルほど上昇してしまいました。
そして、その拍子に、またまたロシアのお友達のリュックは、中のおやつを撒き散らしながらリュックの主より先に着地していました。

「…………」

「ごっ…ごめんね、氷河」
「大丈夫だ。このくらい簡単に……」

なにしろ、5、6メートルはあろうかという氷壁の上から飛び下りるのだって昼飯前のロシアのお友達は、このくらいの高さから飛び下りるのだって平気の平左。
くるくるくるるっ☆ と空中回転をして華麗に着地! ──しようとしたのですが、これまでのダメージが目測を誤らせたのか、ロシアのお友達はちょっとだけ予定着地点からずれて、工場の作業台の上に落ちてしまったのです。

「わ〜ん、氷河、大丈夫ーっっ !? 」
「瞬……俺はやったぞ」
「うん。氷河、とってもカッコよかったよ」
「あれを……」
「え?」

ロシアのお友達が指差した先には、小さな小人さんの彫刻がありました。
5つめの小人さん彫刻は、作業台の上にあったインク壺の中にちょん☆ と座り込んでいたのです。

インク壺の蓋は閉められていましたから、もしロシアのお友達が作業台を引っくり返し、そのはずみでインク壺の蓋が外れなかったなら、永遠に見つかることはなかったかもしれません。

「氷河ってやっぱりすごいね! さっきのくるくるって飛んだとこ、すっごくカッコよかったよ!」

瞬ちゃんにソンケーの眼差しで見詰められて、ロシアのお友達の打ち身の痛みはどこかに吹っ飛んでいきました。

「次へ進もう」


どんな困難にも真正面から立ち向かい、はねのけてみせる!

新たな決意を胸に、再び歩き出したロシアのお友達の後ろ姿は、少しよろめいていました。






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