瞬にとっては謎でも何でもない『好き』という感情すら謎と捉えてしまうような孤独な氷を溶かすには、いくつもの季節を通り過ぎる必要があるのだろう――と、瞬は思っていた。
だから、それまでに自分も大人になっていればいいのだと、瞬は――確かに悠長に構えていたのだ。

それが。

つい数刻前まで、恋の入口の前でうろうろしていた氷河の指先は、いったんそのドアを開けると迷いもなく、瞬の中心に向かってきた。

溜め息より先に、戸惑いの悲鳴があがる。

「あ、そこはだめ…!」
「面白い冗談だ。ここに触れないで、何ができる」
「氷河…!」

瞬は、自分に覆いかぶさってくる男の重みに目眩いを覚え始めていた。
気持ちが追いつききれずにいる瞬の身体を、氷河はどんどん開いていく。

謎を遠巻きに見詰めていることをやめてしまった男は、ひどく性急で猪突だった。

瞬は、ここに至って初めて、自分の思い違いに気付いた。
氷河の瞳が黒葡萄より深い色に見えていたのは、彼が迷いの淵に沈み込んでいたからではなく、迷いが彼の内を満たし尽くして、弾ける寸前の状態にあったからだったのだ。


時計が、突然、これまでの数百倍のスピードで時を刻みだす。
カレンダーは、あの闘いの日々よりもはるかに速く、次の季節に進もうとしていた。




秋は気付かぬうちに訪れ、駆け足で過ぎていく。

そして、秋の夜は長い。






Fin.







【back】