いもしない憑き物を退治するために、翌日、氷河は内裏に足を運んだ。

直衣は身に着けているが、無論、無冠である。
こういう場合は、人とは違う髪が見えていた方が、何かと便利なのだ。
自分が凡百の徒とは違うのだということを誇示するために。

畏れ多くも帝に拝謁を賜り、年に1度、内裏に顔を出すか出さないかという廷臣に、大騒ぎする猿の不気味さをつらつらと愚痴る帝を、氷河は適当に相槌を打ってやり過ごしていたのだが――。


帝と対峙している間ずっと、氷河は異様なもの――というより、嫌な気分――を感じていた。
何か――氷河の神経を逆撫でする、そこにあってはならないもの、異質なもの――が、身近にいる気配がするのである。

以前、帝の前にあがった時と何が違うのか――と、周囲に視線を巡らせて、見付けたものは一人の少年だった。
童殿上というには歳が行きすぎているが、多く見積もっても、十四、五歳というところだろう。

帝の側に控えている、可愛いらしく素直そうな目をしたその少年が、氷河の神経に妙に引っかかってくるのだった。 


「何か……妖しのものが内裏内にいるのは本当のようだな」

「やはり、そうなのか?」
氷河の呟きを耳敏く聞きとめた帝が、御簾の向こうで声を震わせる。

そして、帝は「あな、恐ろしや〜」を5、6回繰り返すと、早々にその場から退出してしまった。






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