――が。

人と狐の血を引く妖しの陰陽師は、瞬にとってはあまりいい飼い主ではなかった。


「瞬、面白い洒落を思いついた」
「はい?」

「狐と犬が、夜道で出会ったんだ」
「はい」
「で、挨拶を交わした。何て言ったと思う?」
「……は?」
「狐と犬だから、『コンワンワー



「………………………」



こんなくだらない洒落を嬉々として披露する男を、飼い主として慕い続けることができるものだろうか。


瞬がにこりともしないのを訝って、氷河が首をかしげる。
「ん? 高尚すぎて意味がわからないか? 『今晩は』をコンとワンで――」

「僕、犬に戻らせていただきます」
「おい、瞬。何も洒落の出来が良すぎたくらいのことで!」

一人暮らしが長かったところに、気のおけない同居人を得たことで、氷河は少し壊れてしまったようだった。
人間(?)というものは、思いがけない幸せに遭遇するとそういうふうになってしまうものなのかもしれない。





安倍晴明の最晩年に、彼の才能と力を受け継いで生まれた、金色の髪の末子。

没年不詳。
彼は、随分と愉快な人生を送ったらしい。






おしまい







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