今、氷河と瞬と星矢の前にあるのは、シベリアの雪原と大して変わらない風景だった。

白く霞む世界。
終わりは見えない。

終わりは確かにあるはずなのに、それはまだ誰にも見えない。


これまでも、そうだったのだ。
人間たちが、自分の住む星が滅びる時のことなど考えていなかった頃にも。

自分の生にも、地球の命にも終わりがあることを、誰もが知っていた。
ただ、それを意識せずに生活することができていただけで、本当は誰もが知っていたのだ。


「何にでも終わりはあるが、人がどこまで行けるものかは、誰にもわからない。自分で、その果てを決めることはない」

終わりを決めてしまったら、人はそこより先に進むことができないではないか。


「うん」
憎らしい恋敵の言葉に、星矢が大きく頷く。
敵の言葉だけに、それは真実なのだと、星矢は思ったらしかった。

何より、星矢には、氷河を追い越し、氷河より遠くへ行くという目標があるのである。
星矢の未来に、“果て”はなかった。


「うんと遠くまで行けるよ、俺」
瞬に、そう宣言して、星矢は雪の上を駆け出した。

雪の上に、小さな足跡が点々と描かれ始める。


氷河と瞬は、並んで、星矢の後を追い、歩き出した。


どこまででも行ける。
どんな遠くにでも。

「おまえがいてくれれば」

星矢に気付かれないように、氷河は瞬の手の温もりを握りしめた。


瞬が、花のように微笑む。
氷河と星矢の生きている地上には、まだ春が残っていた。





Fin.







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