「少々お転婆なのだが、夫となる男性にはひたすら仕えるようにと躾けてある。瞬は、必ずや氷河くんの良き妻になるだろうと、私は確信しているぞ」

瞬の父親だという男は、カミュよりは常識を持っている男のようだった。
年齢は40代半ば。
先代の財を守り、この不況の時代に、それを更に増やしつつあるというのだから、その態度に貫禄と自信がみなぎっている訳もわかる。

が、躾の行き届いた愛娘を、行きずりと言って差し支えない男が引き取っている毛唐の子供に与えることを約したというのだから、その常識も自信も、今ひとつ信用がならない。

初めて足を踏み入れた畳敷きの和室で、正座などというものをする羽目になった氷河は、身体も気持ちも落ち着けずにいた。
そもそも予想に反して可憐極まりないヤマトナデシコの件がなかったら、氷河は座敷に上がるつもりもなかったのだ。

「…………」
いくら何でも話がうまく出来すぎている。
そう思わずにいられないほど――座敷の下座に控えているヤマトナデシコは、氷河の好みだった。


瞬は、外国人が思い描く、古き良き時代の日本女性そのものだった。
口数少なく食事の給仕をし、細やかに気を遣い、風呂に入る時には、
「お背をお流しいたしましょう」
――である。

理性を見失い、後戻りできない事態を引き起こしそうだったので、さすがにそれは遠慮したが、結局、氷河は、瞬の引力に負けて、婚約の件を断ったらすぐに辞するつもりでいた城戸家に、しばらく滞在することになって――して――しまったのである。






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