瞬が駆けつけた、アテナ神殿の広間という名の大宴会場は、予想以上の惨状を呈していた。


神聖な神殿のそこここに、ごろごろと巨大な金色のマグロが転がっている。
しかも彼等の周囲には――彼等がしこたま腹に詰め込んだものが、違う形状になって外界に戻ってきていた。

「きゅ……救急車っ! 救急車呼んでっ! 紫龍、ブドウより、毛布っ! みんなの身体を温めてっ」


――“祭り”で、日常の正気や秩序を失い、人は神の世界に近付く。
故に、本来の祭りのクライマックスは、酔いつぶれること──ではあるのである。
それが、非人知──つまり、神──に近付くことなのだ。


「だからと言って、ここまで神に近付くことはないだろうに……」

氷河が呆れて、自分の師の体温を、その手で確認する。
元々低い体温は、血中アルコール濃度の急激な上昇で、ほとんど死人のそれだった。

「まだ、瞳孔は開いてないな」
死んでも生き返る車田キャラのこととて、氷河は真剣に心配はしていなかった。


が、瞬はそこまで達観できているキャラではない。


神聖なるアテナ神殿の床に転がっている、12人の神に近い男たち。

吐瀉物が喉に詰まらないようにするために、そのでかい図体に側臥位をとらせた後で、吐瀉物の始末に、体温低下を防ぐための毛布の手配。
しかも、救急車がアテナ神殿まであがってこれないことに気付いた青銅聖闘士たちは、結局、12人の神に近い男たちを白羊宮の下まで運ぶことになってしまったのである。


まさに、現場は大混乱だった。

祭りの後のもの寂しさなど感じている暇も余裕もない。

この不始末の後始末、病院への収容、沙織への説明・弁解。
考えただけで、瞬の頭は、世界の秩序が誕生する以前の混乱状態──まさに、祭り状態――になっていた。



生きていることが祭りである――とは、よく言ったものである。


生きている限り、祭りは終わらないのだ。





Fin.







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