「ふん。聖闘士ってのは、こういう時、不便だ」

死んでしまってもいいと思っているのに、死ぬこともできない。
ドライバーズシートから瞬を引きずり出し、その身体を抱きかかえて、衝突直前に車から脱出した俺は――瞬も――怪我ひとつしていなかった。

コンクリート塀に衝突して車体を3分の2ほどに縮めた車は、オレンジ色の炎と黒い煙を吐いて派手に炎上している。

最新モデルのセンチュリー。
オプションも色々ついていたから、1000万は下らないだろう。
それはともかく、瞬の無免許運転がバレるのはまずい。
車どころか、数百億の費用をかけたグラードコロッセオさえ軽く放棄してくれたアテナがどうにかしてくれるだろうとは思ったが、俺は、とりあえず、厄介事を避けるため、事故処理車や警察が来る前にその場を離れることにした。

瞬を抱え、壁を飛び越える。

そこは、延々と続く砂浜だった。
白い砂が妙に粒の揃っているところを見ると、人工海岸らしい。
頭の中の地図で、関東一円の人工海岸を探し出し、俺は、今俺たちのいる場所の当たりをつけた。

「こんなところまで来ていたのか」
城戸邸に車無しで帰ろうとしたら、聖闘士の足でも結構かかるだろう。
俺は自力で帰ることを断念し、白い砂の上に瞬の身体を置いた。

都心から200キロ弱離れただけで、空にある星の数が全く違う。
俺は、俺と瞬の星座を、肉眼ではっきりと確かめることができた。






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