瞬は、“正直な”氷河に攻められ続け、自分の身体を自分のものだと思うことさえできなくなりつつあった。 それは、氷河を悦ばせ、狂わせるだけの道具になりかけていた。 幾度目かの──熱いたぎりが瞬の肌に触れ、その力を誇示してくる。 氷河はまた、瞬の中に入ってこようとしていた。 瞬は、ともすれば氷河にすがりついてしまいそうな自らの腕に逆らって──自然に逆らって──嘘をつくための力を振り絞った。 「ひょ……が、聞こえてるんでしょ……? 僕、これから、僕自身のために、嘘を、言うよ」 それだけのことを言葉にするのにも、瞬自身の喘ぎ声が、幾度も邪魔を仕掛けてきた。 「?」 僅かな時間、氷河は、その言葉に戸惑いを示したが、しかし、結局彼は、瞬の声を無視して、瞬の中に押し入ろうとしてきた。 その氷河に、上下する胸と荒ぶる呼吸を無理に抑え、瞬は告げた。 「僕は、こんな氷河は大嫌い」 「…………」 氷河の身体が止まる。 次の瞬間、声にならない悲鳴をあげたのは、欲しいものをもらえる予感を裏切られた瞬の身体の方だった。 それに耐えて、言う。 「僕が好きだったのは、ほんとはそうしようと思えば、いくらでも強引に振舞えるのに、僕のために自分を抑えていてくれた氷河だよ」 美しいものは、その儚さ故に、より美しく尊いものに感じられる。 だが、心の安寧と純粋を求めて正直になりすぎることは、往々にして、人間にその時だけの幸福をしかもたらさない。 自身を汚し、嘘そのものに苦痛を覚えながらも、人が人のために嘘をつくのは、継続を──そして、永遠を──求めるからなのだ。 いつまでも一緒にいたいから、小さな嘘を繰り返し、積み重ね、苦しみ、それでも、少しでも長く── 一緒に同じ時を共有していたいから。 そのために人は、時に、臆病にも卑怯者にもなる。 瞬も、今では、臆病すぎたこれまでの自分を悔やんでいた。 初めて、快楽に因るものではない涙が、瞬の瞳に浮かぶ。 「でも、僕が好きなのは、こんな氷河じゃない」 |