案ずるより産むが易し――と言い切れるほど、それは容易なことではなかった。
が、氷河の苦心と奮闘の甲斐あってか、瞬はその動物ごっこが、いたくお気に召したらしい。

瞬は、それから、就寝時刻が近くなると、氷河の前で、猫の真似やら犬の真似やらを始めるようになった。
氷河が気付かぬ振りをしていると、ひとりで廊下に出て、捨てられた猫の真似をする。


氷河が、
「拾ってほしいのか」
と尋ねると、捨て猫は、
「えっちなことして」
と、小さな声でねだってくる。

氷河が最初の最初に思い描いていたように、切なげに、思い詰めたような目をした瞬は、どこかに甘えを含ませた唇で、そんなふうに氷河を誘うのである。


そして、仔猫であろうと冷凍マグロであろうと、それが瞬であるのなら、氷河はその動物が好きだった。

結局、氷河は、その捨て猫を拾うために、手を差し延べずにはいられなくなるのである。





Fin.







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