「ああ……っ!」
氷河が僕の中に押し入ってくる。

でも、僕は、その痛みを快さに変える術を心得ている。
僕は喘ぎ、身悶え、氷河をより深く受け入れるために身体を開こうとしながら、氷河を逃がすまいとして身体を収縮させるという、矛盾した行為を開始した。

あの言葉を繰り返すのをやめた氷河の唇が、僕の耳許で低く呻く。
僕が、身体の奥に氷河を感じて気持ちいいように、氷河も、彼自身を僕の肉に絡み取られて快さを感じているんだろう。

そのうちに氷河は、いつものように、自分の快楽を追うのに夢中になって、僕を突き上げ、僕の中をかき乱すための、あの獣のような運動を始めるに違いない。
時に僕の身体を傷付けることもあるその行為で十分な満足を得てから、氷河はやっと僕に無理を強いたことを詫びてくるんだ。

謝らなくてもいいのに。
それは、僕自身が望み、許し、求めていることなんだから。
なのに、氷河は、いつもいつも、
『瞬、すまない。痛かったか。おまえは大丈夫か』
って、僕に──。

「あああああ……っ!」
氷河が僕の中に突き立ててくる衝撃が、僕の思考を中断させる。
痛い、痛い、痛い、気持ちいい──。
氷河の肩を掴んでいた僕の手は、氷河の激しい動きに振りほどかれた。

でも、僕はもう、氷河にしがみついている必要はないみたいだった。
氷河のそれが、まるでじ込むように強く深く僕の中に入ってきて──それが、彼の最後の乱暴だった。
僕は、あとは、荒い息を整えた氷河の謝罪を、笑顔で許してやればいいだけ。
──のはずだったのに。

嵐に翻弄されて岸に打ちあげられた木の葉のようにぐったりしている僕の耳許に、氷河が囁いてきたのは、いつもの謝罪の言葉ではなく、
「目を開けてくれ、瞬」
また、あの言葉だった。

そして、氷河は、いたわるようにではあったが、すぐにまた僕の身体を愛撫し始めた。
「目を開けてくれ、瞬」
その言葉を繰り返しながら。

氷河が、その言葉を、あまりに苦しそうに言うので、僕は恐る恐る小さな声で氷河の名を呼んでみた。
どうしてそんなことを言うの? と、尋ねるように。

「瞬 !? 」
僕の声が氷河の愛撫の手を止めてしまった──らしい。
それが不満で、僕は、焦れる僕の身体の要求を代弁した。
「やめないで。もっとして……続けて」

一瞬躊躇してから──僕にはそう思われた──、それでも氷河は、僕の望みを叶えてくれた。
ああ、気持ちいい。
氷河の愛撫の下で、僕は、これ・・を知る前の自分が、お日様の光をいっぱい吸った布団だの、小犬や小猫のやわらかい感触だの、そんなものに触れることが最上の“気持ちいい”だと信じていたことを思い出した。

そして、優しい愛撫をくれる氷河も、乱暴に僕の中に押し入ってくる氷河も、僕はとても好きで──いつもとても可愛いと思っていた──ことも。






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