「くっそーっっ !! 」
ミロは完全にやけになっていた。
それでも可愛い弟子を危険にさらすことはできないと、彼はそれだけは本能で理解していた。
だから、あくまでも十二宮突破に挑もうとする瞬を、彼は再度きつくたしなめたのである。

「人馬宮を正攻法でクリアしようとしたら、黄金聖闘士でも大怪我をする。おまえの手足や顔に傷がつきでもしたら、私はいったいどうすればいいんだ。私は、そんなことのために、おまえを聖闘士に育てあげたわけではない!」
ミロは断固として言い放ち、瞬たちに迂回路を行くことを命令した。
命令するだけでなく、青銅聖闘士たちと共に人馬宮を素通りし、カミュにも同道を強要して宝瓶宮を通り抜け、次なる磨羯宮に向かった。
そして、磨羯宮を守護するカプリコーンのシュラの説得に当たったのである。

「俺やカミュの言葉を信じろとは言わん。そんなものを信じる黄金聖闘士がいたら、私はそいつを大馬鹿者と笑うだろう。だが、私の可愛い瞬の言葉を信じない奴は、俺達を信じる馬鹿より大馬鹿者だ。この澄んで美しい瞳を見ろ。信じるに値するとは思わんか」
『思わない』と答えたらどうなるか――。
賢明なる山羊座の黄金聖闘士は、弟子可愛さにとち狂っている大馬鹿者の相手をすることの愚を敏感に察知し、諾々として彼の言葉に従ったのである。

次なる双魚宮では、魚座の黄金聖闘士が以前から欲しがっていたゲランのイシマ・シリーズのフェイスケア商品を差し出すことで、ミロは、瞬に危険がふりかかることを阻止しようとした。
「よい品だぞ。品薄で最近手に入らないものだ。これを使えば、貴様の肌も瞬の半分くらいはみずみずしさを取り戻すことだろう。まあ、私の瞬はそんなものも必要ないくらい綺麗な肌をしているし、可愛いし、何より貴様と違って気立てがいいから、余計な手をかける必要もないわけだが」

ワイロの効果は覿面だった。
ミロは、その身に、彼の正直な発言に立腹した魚座の黄金聖闘士から白いバラを100本突き立てられるだけで、双魚宮を通り抜けることができたのである。
その頃には、アルデバラン、ムウ、シャカ、アイオリアたちも青銅聖闘士一行に加わって、結局 教皇の間の前には、老師、アイオロス、デスマスクを除いた黄金聖闘士8人が勢揃いすることになった。

こうなると、アテナの登板を待つまでもなく、サガの悪心は引き下がるしかなかったのである。
『力こそ正義』を謳うサガの邪心は、8人もの黄金聖闘士を同時に敵にまわすほど愚かではなかったのだ。


――かくして十二宮の戦いは幕を閉じた。
この闘いで命を落としたのは、蟹座の黄金聖闘士デスマスクのみ。
怪我人は、双魚宮での闘いでアフロディーテのブラッディ・ローズを100本ほどその身に受けたミロひとりだけだった。






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