闘いが終わり死地から生還したあとの夜に、氷河の愛撫は最も濃密で過激だった。
敵との闘いでは死なずに済んだが、せっかく生き延びさせることのできた身体も 氷河によってばらばらにされてしまうのではないかと、そのたびに瞬は思った。
だが、瞬は そんな氷河を制止しようとしたことはない。
彼の愛撫をやめさせようとしたこともない。
瞬は、氷河にそうされることが嬉しかったし、心地良かった。

今度こそ失うかもしれないと思い、かろうじて失わずに済んだものを互いに抱きしめて、目に見るだけでなく、声を聞くだけでなく、触れ合い、互いの体温を互いの身体に移し合い、すべての感覚を揺さぶり合うこと。
それは、瞬にとっては――おそらく氷河にとっても――自分たちが生きていることを確かめ合う行為だった。

「あっ……あ……ああ……っ!」
瞬は、もう随分長いこと、絶対に星矢たちには見せられない格好で、氷河が打ちつけてくるものを その身体に受けとめ、そのたびに大きく背をのけぞらせていた。
瞬の身体が自分を受け入れることを憎んでいるかのように激しく執拗に繰り返される氷河のそれは、傍目に見れば、瞬の身体を傷付けるだけの行為だったろう。
実際に、氷河は瞬の身体を傷付けてしまうことが多々あった。
そして氷河は、自分がそんなことをしてしまうのは――そこまでしてしまうのは――、自分が瞬の身体にそうするよう仕向けられているからだと思っていた。
氷河自身は、瞬の身体を傷めつけるような結末を望んだことは一度たりともなかったから。

瞬は これ以上は意識を保っていられないというところまできている。
そう感じた瞬間に、氷河は瞬の身体の最も奥深いところまで、彼に残っている力のすべてを使って、彼自身を打ち込んでいた。
瞬が、肉食獣の爪に心臓を掴まれた小動物のような悲鳴をあげる。

だが、肉を食らう獣にそうさせるのは瞬の身体で、獣自身の意思ではない。
二人が同時に達することを瞬が望んでいるから、そうなるだけなのだ。
そして、二人の交合はいつもこうだった。
自分が瞬に操られているのでなければ、身体を交えるたびに起こる その瞬間の一致はありえないと氷河は思っていた。

だというのに瞬は、喉の奥から掠れた声を洩らし、瞳に涙をにじませて、自分が 自分を責めている男に翻弄されている振りをする――犠牲者の振りをするのだ。
それでもいいと氷河は思っていた。
それが瞬の望むことであるのなら。

瞬の隣りに、氷河が仰向けにどさりと倒れ込む。
その時に、氷河がどんな表情をしているのかを、瞬は知らなかった。
その時の瞬はいつも、固く目を閉じ、少しでも多くの酸素を自分の肺に取り込むべく努めているのが常だったから。
瞬にできるのは、氷河が自分の隣りに仰臥したことを寝台の振動で感じることだけだった。
激しく上下する胸が少し落ち着いてくると、瞬はやっと目を開けることができるようになる。
その時にはもう、氷河は彼自身の平静さを取り戻してしまっていて、瞬には彼の表情は読み取れない状態になっているのだ。

横にいる氷河の二の腕に指先で触れる。
瞬の身体の奥にはまだ氷河の感触が残っていた。
氷河に触れていないと、それまでのことが自分ひとりだけが見ていた夢であるかのような錯覚に囚われる。
瞬はそれが嫌だった。






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