今となっては昔の話。 誰も信じる者はいないだろうが、アンドロメダ座の聖闘士は、 幼い頃 結構ないじめられっ子だった――そう思われていた。 実際にいじめられることはほとんどなかったのだが、瞬はちょっとしたことですぐに泣く子供だったので、そのたびに瞬の泣き声を聞きつけて飛んでくる瞬の兄が瞬を泣かせた者を責め、結果として そこに いじめっ子といじめられっ子の二者が出現してしまうのである。 ところで幼い頃、白鳥座の聖闘士は、瞬が泣き出すたびに正義の味方面をして瞬の許に駆けつけ、瞬を慰める瞬の兄を ひどく羨んでいた。 彼と同じことをして、彼のように瞬に見詰められ頼りにされたいと思っていたのである。 氷河がそうしようと思えば、そうすることは簡単だった。 一輝と同じことをすればいいのである。 一輝と同じようにストーカーのごとく瞬を見守り、チャンスが来た時には一輝より早く瞬の前に飛び出していけばいいだけのこと。 が、氷河がその計画を実行に移すには、少々問題があったのである。 瞬を泣かせた回数で氷河の右に出る者は城戸邸には存在しない――という大問題が。 幸い、瞬は氷河をいじめっ子とは思っていないようで、氷河が一輝に怒鳴りつけられた後には必ず、自分の涙と兄の怒声を止められなかったことを氷河に謝罪してくるのが常だったが。 とはいえ、そんな氷河が突然 瞬を庇う側にまわったら、噂好きの仲間たちに何と言われるかわかったものではない。 その口に戸を立てて、かつ瞬の感謝の眼差しをゲットするためにはどうしたらいいのか。 熟考に熟考を重ねた氷河は、ある日素晴らしいアイデアを思いついたのだった。 |