シュンを死なせたくない――。
一晩まんじりともせずに そのための方策を考えて、翌日ヒョウガは極秘裏にシュンを国外に逃がす手筈を整えた。
昨夜遅くなってから神殿に戻ったシュンに逃亡を促すため、神殿に繋がる広い庭を早足で突っ切る。

シュンは彼の居室にはいなかった。
小さな扉の他には窓ひとつない祭壇横の控えの間に、今朝から部屋を替えられていたらしい。
その扉の前には、見張りの神官が一人立っていた。
若い見張りの神官が王の姿を認めて、その入室を阻む。
「シュンを神殿の内から出すなと神官長のご命令です。その……万一 パンアテナイア祭までに神への捧げものが汚れるようなことがあってはならぬと。逃亡の恐れもありますし。本人が逃亡を考えることはないでしょうが、企てる者がないでもないと……」

彼はシュンの養父に、暗に シュンの幼馴染みに注意しろと言われたのだろう。
王に向けられた無礼な言葉に一瞬こめかみを引きつらせたヒョウガは、しかし、すぐに、殊更穏やかな表情と声を作って彼に告げた。
「俺はこの国の王だ。国の益にならないようなことはしない。そして、シュンは俺の大事な幼馴染み。国のために死んでいく者をねぎらいたいし、最期の別れを望むのは当然のことだろう」

俺は神に逆らうことなどできない小心者だと笑いながら言い、ヒョウガはシュンをその場から連れ出すことを決定事項として、若い神官に命じたのである。
「シュンは、この神殿よりも警備の厳重な王宮で預かる。今日だけのことだ。心配なら日暮れに迎えに来い」
――と。






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