ノシが貼られた紅茶と砂糖の詰め合わせを差し出された瞬は、目を丸くして、 「こ……これ、何なの?」 と、氷河に尋ねてきた。 「“お中元”というやつだ。おまえには心配をかけたから、その詫びと、礼と……おまえがいつまでも元気でいてくれることを祈って。知っているか。中元や歳暮の品に貼られるノシには、贈り物を受け取る人間の末永い多幸を願う気持ちが込められているんだぞ」 「そ……そうなの?」 氷河が披露してくれた 実に彼らしくないマナー雑学に、それでなくても驚きに見開かれていた瞬の瞳が、更に大きく丸くなる。 それから瞬は、あまりに聖闘士らしくなく氷河らしくない――つまりは、あまりに一般的に過ぎる――氷河の厚意の表現方法に、これ以上は耐え切れないと言うように、くすくすと笑い声を洩らし始めた。 「僕、お中元もらうのなんて、これが初めて」 「俺も初めて贈る」 遭難から生還してこっち、奇妙な言動ばかりを繰り返す男を、瞬は奇異に思っているのかもしれなかった。 だが、その男がまさか気が狂っているのだとは考えなかったらしく、瞬は嬉しそうに微笑んで、 「ありがとう」 と贈り物の贈り主に礼を言ってきた。 「このノシや包装紙、記念に取っておくね。見るたび、楽しめそう」 「ああ」 瞬の手が、小さな子供の頬に触れるような仕草でノシの王子様を撫でる。 ノシの王子様は、優しい手をした瞬に恋をするのだろうか。 端が少し千切れ僅かに反り返っている そのノシの姿は、氷河の目には、彼が巡り合えた最初で最後の恋に歓喜し、嬉しそうに身をよじらせているように見えた。 Fin.
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