十二宮の戦いのあと、氷河は変わった。
なんだか僕を見ていることが多くなって、そして、彼の視線は僕は戸惑わせる。
氷河の瞳は以前のまま変わらない。
誰かを熱烈に恋しているあの瞳のままだ。
その瞳に、彼は僕の姿を映す。
氷河が僕以外の誰かを見詰めているから、僕はその目に焦がれていることができたのであって、その目で直接見詰められたら、僕は冷静でいられない。

僕のものじゃない氷河だから、僕に関心を持っていない氷河だから、僕は安心して氷河を見ていることができたんだ。
氷河に直接見られたら、あの瞳の中に閉じ込められてしまったら、僕は不安だし、恐い。
僕自身が本当に溶けて消えてしまうようで、恐くてならない。

でも、氷河は僕を見ることをやめてくれなかった。
僕は彼の視線を感じるたび、気が遠くなったり、気が狂いそうになったりした。
だから、僕は僕の心の平穏を保つために、氷河を避けるようになった。

氷河が、そんな僕を悲しそうな目で見詰める。
僕は苦しくて、どうすればいいのかがわからなかった。
僕は、僕のせいで氷河が悲しむことも、苦しむことも、喜ぶことも笑うことも望んでいない。
誰かを恋して、その人に心のすべてを傾けている氷河を、遠くから見ていられれば、僕はそれでよかったんだ。
なのに氷河は、ある日、その恐ろしい言葉を僕に告げた。
「瞬、俺はおまえが好きだ」
――と。

僕はぞっとした。
本当に背筋が凍りついた。
僕は、氷河の心変わりを責めたかった。
あんなに恋していた人を、氷河は忘れてしまったのかと。
あんなに恋していた人を、氷河は忘れてしまえるのかと

僕は氷河が恋していた人ほど魅力的な人間じゃないし、優しくもなければ強くもない。
僕はすぐに氷河を失望させることになるだろう。
氷河はどうして――氷河はどうして、僕の安全だった恋を壊そうとするの。
僕は、氷河をなじらずにはいられなくて、氷河を責めずにはいられなくて、実際にそうした。

「氷河は、氷河が今まで恋し続けていたあの人のことを、忘れてしまえるの?」
そう言って。






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