俺はそれからも、瞬に教えてもらったことを幾度も繰り返した。 瞬といると、俺はいつも落ち着かなくなったから。 俺が瞬にそれを求めると、瞬はそのたびに恥ずかしそうに頬を上気させて、俺のために身体を開いてくれた。 俺は夢中になって、瞬の花びらのような肌に唇を押しつけ、瞬を抱きしめた。 そうしているうちに、俺が瞬の身体のあちこちにキスしたり触ったりすると、瞬は気持ちよくなるらしいことが、俺にはわかってきた。 俺がそうしてやると、瞬はいつも優しい溜め息を洩らして、俺にキスを返してくれる。 そんな時の瞬の頬や瞼は薄く朱の色を帯びた花びらのようで、いちだんと綺麗に見えた。 ある日。 その日も俺は、瞬の横顔を見詰めているうちに落ち着かない気分になって、瞬を抱きしめ、瞬に抱きしめてもらっていた。 瞬の中にいる時、ふいに彼女の視線を感じた。 いつもどこからか陽炎のように現れる彼女――この世界の女王の冷ややかな眼差し。 「彼女が見ている」 「え……?」 「怒っているのかもしれない」 俺の言葉は、瞬を怯えさせてしまったようだった。 「氷河……」 瞬が俺の背にまわしていた腕と指先に力を込め、俺にしがみついてくる。 瞬の身体が収縮し、俺を締めつけた。 「う……」 俺は僅かに眉をしかめたが、もちろんそれは瞬の怯えが俺にもたらした変化が刺激的で気持ちよかったから。 彼女の怒りを予感しても、その行為を中断することは俺にはできなかった。 瞬の膝を腕で抱え上げ更に瞬の奥深くに、俺は俺を押し進めていった。 「ああ……っ!」 瞬が、白い喉を 身体ごと大きく反り返らせる。 俺は、どうすれば俺が より気持ちよくなれるのか、こつがわかってきていた。 瞬がつらそうな声をあげるのも、本当につらいわけじゃなく、自分の身の内に生じた快感の はけ口を求めて、そんなふうに喘いだり叫んだりするんだということも。 俺が瞬の頬に手を伸ばす時や その肩に唇を押しつける時、俺を受けとめたあとにも、瞬は、ほんの一瞬間だけ、咲きすぎた花のように唇をつやめかせる。 そんな自分を恥じるように、瞬はすぐに身体を閉じてしまうんだが、それだって、瞬は再び俺に開かれるのを待っているだけのこと。 瞬は俺に触れられ、俺をその身に受け入れることが好きなんだ。 「氷河が気持ちよければ、僕はその10倍気持ちいいんだよ」 俺が瞬の身を気遣うたびに、瞬は頬を染めて俺に答えた。 だから、俺は、瞬を気持ちよくしてやるために、俺自身の快楽を高めることに夢中になった。 人間の世界にも、こんな快楽は存在するのか? 醜い人の世にもこんなに素晴らしい快美があるんだとしたら、それは不思議なことだと、俺は思った。 彼女の冷ややかな眼差しも怒りも、瞬と身体を交える歓びに比べたら、無意味で無価値なことだった。 「あの者を、この苑から追い出せ!」 彼女が陽炎が立ちのぼるようにして俺の前に姿を現わしたのは、それからまもなく。 瞬は 熱にほてった身体を泉の水で冷ましに行っていた。 そして、俺の前に現われた彼女の目は怒りと苛立ちに燃えていた。 俺は、彼女の怒りを予想してはいたが、理解できてはいなかった。 彼女はなぜ、何をそんなに怒っているんだろうと思っていた。 俺と瞬は何も悪いことをしていない。 彼女が定めたこの世界のルールを、何ひとつ犯してはいないんだ。 「瞬は、人の世のつらさに耐えかねて ここに来たんだ。ここで幸福にしてやれば、人間界でのことを忘れられる」 「あの者はこの世界に汚れを持ち込んだ。おまえも汚れつつある――いや、既に汚れている。何だ、あのあさましい獣のような姿。おまえたちは堕落しきった醜い人間そのものだ」 「瞬は花のように綺麗だ。どこが汚れているっていうんだ。瞬は、人間の世界のつらさから逃れてここにきたのに、そんな汚れた世界に無理やり追い返すなんて、そんなひどいことはしないでくれ!」 俺が頼めば、彼女は折れてくれる。 俺はそう信じていた。 どんなに冷たく厳しい眼差しをしていても、彼女は俺の“母”なのだから――と。 だから、 「それでも人間は、人間の世で生きていかねばならぬ」 という彼女の断言は、俺をひどく驚かせることになった。 それは、自分を俺の“母のようなもの”だと言った彼女自身の言を否定するものだったから。 「俺は? あなたは、俺が人間ではないものになりつつあると言った。俺は――俺も元は瞬と同じ人間だったんじゃないのか? あなたは、俺もあなたの国にいてはならないものだというのか?」 「……」 俺が問い返すと、彼女は口をつぐんだ。 そして、無言で俺を責めるように見詰め――やがて、どこかに消えていった。 |