氷河王子は、本当に魔法が使えるのではないかと思うくらい巧妙に、欲深大臣の悪巧みの情報を掴んできて、瞬王子に知らせてくれました。
その上、やがて それだけでは飽き足らなくなったらしく、自らもマスクをして、悪者退治に出掛けるリボンの騎士に同行するようになってしまったのです。

これまでずっと一人で――兄である王様にも内緒で――欲深大臣の悪事の阻止に努めてきた瞬王子に、思いがけず力強い味方ができたのです。
いたずら天使の星矢も リボンの騎士の信頼できる味方ではありましたが、天使である星矢は剣を持って戦うことはできませんでしたからね。
一人で戦っていた時には、リボンの騎士は、せいぜい悪事の場に乗り込んでいって、その場にいる者たちを蹴散らし悪事を中断させることくらいしかできませんでした。
それが二人になると、二人だからできることがたくさんありました。
氷河王子は馬の扱いも巧みでしたが、剣の方もなかなかの使い手で、彼はリボンの騎士のとても頼りになる仲間になってくれたのです。

欲深大臣の悪巧みの情報を入手すると、氷河王子とリボンの騎士は王宮の厩舎で落ち合います。
そして、それぞれの愛馬に跨り、並んで悪事の現場に向かうのです。
「さて、行くか。正義の味方殿」
「うん」
と、短い言葉を交わして。

一緒に出掛けて、一緒に戦って、一緒に悪巧みを粉砕して、一緒に意気揚々と(でも、城中の者たちには気付かれぬようこっそりと)帰城する。
これまで一人でしていたことを二人でするようになっただけなのに、瞬王子の心は、たった一人でそれをしていた時とは全く違うものになっていました――寂しくなくなっていました。

瞬王子だけではありません。
氷河王子も、リボンの騎士と行動を共にすることを とても楽しんでいるようでした。
もっとも彼は、正義を為すことに誇りや義務を感じているというより、悪を懲らして遊んでいるといった風情ではありましたが。
そんな氷河王子の態度を不謹慎と思いつつ、瞬王子自身、氷河王子と二人でいることを楽しいと感じている自分に気付いていたので、彼に文句を言うことはできませんでした。

悪者退治の翌日には、氷河王子は瞬王子の部屋に昨夜の報告をしにきてくれます。
リボンの騎士の正体は瞬王子その人でしたから、本当は報告なんていらなかったのですが、瞬王子はそんなことはおくびにも出さず、毎回氷河王子の報告に熱心に聞き入りました。
熱心に聞いている“振り”ではなく、本当に熱心に氷河王子の話を聞きました。
同じ場所で同じ目的のために行動していても、その場その時で人が感じることは個々人で違うもの。
自分と同じ場所で共に闘っていた氷河王子が、その時 何を感じ何を考えていたのかを聞くことが、瞬王子は本当に楽しかったのです。

「あのリボンの騎士、チビで細いくせに、やたらと強い。へたをすると、俺より強いかもしれない」
リボンの騎士の正体を知らない氷河王子が、リボンの騎士のことをそんなふうに言ってくれるのを聞いているのは――やっぱり楽しいですよね。
「あれほどの剣の使い手を、俺は他に知らない。シルバーランドは綺麗な風景以外、特に見るべきものもない小国と聞かされていたんだが――。あんなに優れた剣の使い手はいるし、亜麻色の髪の乙女みたいに とんでもない美少女はいるし、全く、見ると聞くとでは大違いだ」

優れた剣の使い手と、とんでもない美少女。
それは、二人共瞬王子のことです。
氷河王子が心底から感心したように そう言うので、瞬王子は、ちょっと こそばゆい気持ちになると同時に、とても誇らしい気持ちにもなりました。
特に剣の腕前を褒められるのは、いつも兄君のように男らしい王子様になりたいと願っていた瞬王子には、『女の子より綺麗』なんて言われることより、ずっとずっと嬉しい賞讃だったのです。

「ありがとう」
あんまり嬉しくて、つい満面の笑顔でお礼を言ってしまった瞬王子に、氷河王子が不思議そうな目を向けてきます。
「おまえを褒めたわけじゃないぞ」
「それはそうだけど……友だちを褒められたら、嬉しいでしょう?」
「……仲がいいんだな」
「え? あ、うん。僕たち、仲がいいんだ」

リボンの騎士の正体を知らない氷河王子。
瞬王子はくすくす笑いながら、彼に頷いたのです。
それまで上機嫌だった氷河王子は、けれど、瞬王子の嬉しそうな笑顔を見ると、ふいに不愉快そうに横を向いてしまったのでした。






【next】