「やっぱ、プトレマイオス型の人間よりコペルニクス型の人間の方が幸せなのかなぁ……? 自分が世界の中心にいるより、自分の太陽を見て生きてる方が」
「ん?」
珍しく星矢は自分自身を顧みるということをしているらしい。
星矢がそんなことをせずにはいられないほどに、氷河の好意を確信できた瞬の笑顔は幸福に輝いていたのだ。
星矢の迷いもむべなるかな、というものである。

「俺たちにはアテナという太陽があるじゃないか」
それが慰めになるのかどうかということには今ひとつ自信を持てていないような口振りで、紫龍が星矢を慰める。
「いつ爆発するかわからない、おっかない太陽だけどな」
星矢は苦笑で仲間の慰めに答えた。
「どちらかに偏るのは危険だということだろう。必要な時に相手のことを思い遣ることさえできるなら、人は 普段はプトレマイオス型の人間でいて構わないと思うぞ」
プトレマイオス型だろうがコペルニクス型だろうが、いずれにしても人は皆、互いに関わり合って生きている――関わり合って生きていくしかないのだ。
星々が引力で互いに影響し合い、均衡を保って存在しているように。

そして、人と人との出会いは奇跡である。
実際には遠く離れた場所にある星たちが結ばれ、一つの星座を描いているような奇跡。
太陽と地球が絶妙の位置関係を持って共にこの宇宙に存在することが奇跡なら、その地球に生命が誕生したことも、その生命が意思を持つようになり愛情というものを生んだことも奇跡。
世界は素晴らしい奇跡で満ちているのだ。

「氷河の奴、変な意地張って、馬鹿なことしなきゃいいけど」
「地球は太陽がないと、動きようがない。地球の分際で、太陽に歯向かうことはしないだろう。歯向かえるわけがない」
「そりゃそーだ」
奇跡に満ちた世界に生を受け、その命を預けることに何の躊躇も憶えないほどの仲間たちに出会えた奇跡。
それらすべての奇跡に、星矢は――星矢でも――感動と感謝の念を覚えないわけにはいかなかった。

「プトレマイオス型天球儀とコペルニクス型天球儀ね……」
腹の足しにもならないと思って見物に行く気にもならなかった沙織のプラネタリウムと彼女の天球儀。
腹の足しにはならないかもしれないが、奇跡に輝く星の界に触れることは心の足しにはなるかもしれない。
そんな気がして――星矢は、沙織の天球儀を見に行ってみようと思った。






Fin.






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