「あのさ、にーちゃんたち。氷河は瞬が好きなんだよ。で、瞬も氷河を好きなわけ。んで、氷河は このGWに瞬との親睦を深めようと計画してたとこなんだ。邪魔しないどいてやれよ。氷河は、あれでも結構 苦労してるんだぜ。清らかが売りの瞬が相手だってだけでも厳しい恋路なのに、氷河は、聖戦が終わるまでは告白するのも我慢してたんだ」
氷河に邪魔者扱いされていた星矢が、あえて その件を忘れて、氷河のつらい立場を三巨頭に知らせ その肩を持つようなことをしたのは、決して彼が氷河に同情したからではなかった。
そうではなく――氷河が三巨頭によって瞬と二人きりになる機会をことごとく阻止されていることに気付いていない瞬が、
「僕、最近 氷河に避けられてるような気がする……」
と寂しそうに呟くのを聞いてしまったからだった。
つまり、瞬のためだった。
瞬のために――瞬に氷河の せこい計画を知らせず、かつ 三巨頭の職務を妨げずに済むように、わざわざ瞬の入浴中、瞬の部屋の浴室のドアの前で、星矢は三巨頭への談判に及んだのである。
『何事にも大雑把』を売りにしている星矢が そこまで気を遣ってやったというのに、三巨頭は、星矢が語る氷河の苦労を鼻で笑い、氷河の仲間の言葉に耳を傾ける素振りも見せなかったが。

「下賎の身で瞬様と親睦を深めようとは、不敬の極みだ。そもそも瞬様は――確かめたことはないが、歴とした男子だろう。そんな問題行為を貴様等は何とも思わないのか」
「氷河の片思いっていうのなら、確かに問題かもしれないけど、瞬も氷河を好きなんだから、別に問題はないだろ」
「貴様は何を言っているんだ。アテナの聖闘士にはモラルというものがないのか。男同士だというだけでも大問題なのに、仮にも地上の平和を守るために戦うアテナの聖闘士である男が、地上で最も清らかな瞬様を汚そうとしているんだぞ。とんでもない話だ。決して許されることではない」
「あんたらが許さなくても、瞬は許すかもしれないだろ。瞬が許すなら、この件にはどんな問題もないんだよ。あんたら、瞬の意思を無視するのか? 瞬は、あんたらの王様なんだろ?」
「……」

もしかしたら、星矢は、三巨頭の弱いところを うまく突いたのかもしれない。
しばしの沈黙の後、ミーノスが いかにも不本意そうに答えてくる。
「我々は、瞬様から やめるようにとのご命令がない限り、キグナスを害虫と見なし、その駆除を続ける」
それが、彼等なりに瞬の意思を尊重するということのようだった。






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