「…………………」 紫龍の魂胆に、氷河は今になって気付いた。 自分が、まんまと紫龍の計略にはまって、昨夜樹立されるはずだった世界新記録をふいにしたばかりか、お邪魔虫の一輝まで城戸邸に連れ戻してしまったことに。 遅ればせながら、そのとんでもない事実に気付いて、氷河は思いきりホゾを噛むことになったのである。 紫龍の計略と、自分の馬鹿さ加減と、一輝の存在に腹が立ってムカついて、どうにも仕様がなかったが、これは今更どうすることもできない事態である。 既に世界新記録の日は過ぎ去り、実際に一輝は城戸邸にいるのだ。 おまけに、瞬、兄に命じて曰く、 「兄さん! 確かに氷河のやり方はちょっと乱暴だったかもしれないですけど、氷河は、僕と兄さんのためにあんな無茶なことしてくれたんです! 兄さんがふらっとどっかに行っちゃわないでいてくれたら、氷河だってこんなことしないで済んだんですからね! 氷河のためにも、兄さんにはしばらくここにいてもらいます!」 ――である。 「…………」 愛と信頼は、人を強くもするが、愚かにもする。 得難い教訓を得た氷河の胸で、徐々に秋は深まっていった。
to be continued
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