『真に愛する心の中では、愛情が嫉妬を殺すのだ』 ――とはポール・ブールジェの言。 「右手が僕からで、左手が氷河からですよ。両方揃ってないと役に立たなくて、暖かくもないの。使ってくださいね」 二人からのプレゼントだという黒いレザーの手袋を、一輝は顔と心の半分を引きつらせながら受け取ったのである。 瞬はそれからしばしば、兄が自分たちからのプレゼントを使ってくれているのを見掛けることになり、そのたびに幸せな気持ちになることができた。 瞬は、知らなかったのである。 一輝が、『いい兄さんの日』の翌日、氷河と瞬から贈られた手袋と全く同じものを一組購入したことを。 そして、新たに購入した手袋の左と昨日贈られた手袋の右とで、氷河と瞬から贈られたものとは別の一組を作って使用していることを。 なかなかどうして、人間は愛情と寛容だけでできている生き物ではない。
to be continued
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