「ついに、十二宮戦当日。いよいよ、我等がご主人様がテレビ・デビューする時がやってきたぜーっ!」

双魚宮のバラ園のいちばんの古株で、いちばん大きな花を咲かせているリーダー格のバラ1号は、この晴れの日を迎えた喜びに打ち震えつつ、少々興奮気味に叫びました。

バラ2号 「世界中の者たちに、我等がご主人様の美しさを知らしめる時がきたんだ!」
バラ3号 「青銅の小僧っこ共を、我等がご主人様の足元に跪かせてやるんだ!」
バラ4号 「それには、うんと効果的な演出が必要だな」
バラ5号 「うむ。アフロディーテ様の美しさを強烈に印象づける、キャッチコピーとナレーションを考える必要があるだろうな」


バラ園のバラたちは、毎日自分たちの世話をしてくれる優しいご主人様が大好きでした。
ご主人様のためなら命も惜しくないと思っていましたし、その美しさは世界一だと信じていました。

バラ6号 「いいね、それ。『ご主人様は薔薇より美しい』なんてのはどうかな?」
バラ7号 「いや、『世界中の薔薇より綺麗』とか」
バラ8号 「『世界でいちばん薔薇が好き』なんてのは?」
バラ9号 「『君に薔薇薔薇 ハートは赤い薔薇♪』」
バラ10号 「『薔薇よ、ご主人様は美しい』」
バラ11号 「『劇的な劇的な薔薇』」
バラ12号 「『くやしかったら、双魚宮へいらっしゃい』」


アイデアはたくさん出ました。
彼等のご主人様の高貴な美しさは、バラたちにとって豊かなインスピレーションの素でしたから、まさに意見百出です。

ですが、なかなか、これ! といったフレーズが出てこないのです。
バラたちのご主人様の高貴な美しさは、もしかしたら言葉などでは言い表すことのできないものなのかもしれませんでした。

バラ13号 「うーん、もっとこう、脳天にガーンと衝撃が走るようなのはないかなー」
バラ14号 「そうだな。ちょっと弱いな」
バラ15号 「アフロディーテ様が世界でいちばん美しいのは疑いようのない事実なんだから、もっと大上段に構えてもいいと思うんだが」
バラ16号 「フツーの人間だったら、恥ずかしいだけのキャッチコピーでも、アフロディーテ様なら負けないもんな」
バラ17号 「もちろんだよ! 俺たちのご主人様は世界一だ!」
バラ18号 「まだ、時間はある。じっくり考えて、素晴らしいデビューを飾って差し上げよう!」


「おーっっ !! 」× バラの数


以下、煩雑になりますので、特殊な場合を除いて、どのセリフが何号のものなのかは略しますが、とにかく、バラ園の無数のバラたちは、その花弁を寄せ合って、彼等のご主人様の活躍を華麗に飾るためのキャッチコピーを、ああでもないこうでもないと、それはそれは熱心に話し合い続けたのです。




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