それはともかく、さておいて。

高貴で美しいご主人様の雅やかなシャレに感涙しまくっているバラたちには、けれど、少々不愉快なことがありました。

彼等のご主人様の素晴らしいシャレを聞いたはずの敵の口から、賛美の声が全く聞こえてこないのです。
バラたちは、それが非常に不満でした。

「気に入らんな。なぜ、青銅のひよっこ共はアフロディーテ様の高貴なシャレに畏れ入らないんだ !? あまりに素晴らしく自然なシャレだから、気付いてないのか?」
「ふん、所詮は下賎の青銅聖闘士。アフロディーテ様の高尚さが理解できんのだろう」
「そんな奴等相手に闘わなければならないとは、アフロディーテ様がお気の毒だぜ……」

愛するご主人様のあまりに痛ましい境遇に、バラたちは涙を流さずにはいられませんでした。
そして、それでも高貴な美しさを失わないご主人様の姿は、一層バラたちの心を打ったのです。

「それでも、くさらずに闘っていらっしゃる、あのお姿の美しいこと!」
「さすがは、我等がご主人様だ!」
「うむ、実に素晴らしいぜ!」

改めて考えてみると──いいえ、改めて考えるまでもなく──敵からの賞賛があろうがなかろうが、彼等のご主人様が高貴で美しいことに変わりはないのです。
ですから、バラたちは、下賎な敵への不満などすぐに忘れてしまいました。



「花の命は短いが、咲いてみせます、鮮やかに」
「散ってみせます、艶やかに」
「それが薔薇の心意気!」

「いえ〜〜い !! 」× バラの数


    薔薇が咲いた
    薔薇が咲いた
    真っ赤な薔薇が〜
    薔薇は薔薇は気高く咲いて
    薔薇は薔薇は美しく散る〜♪




「33号……」(←バラ1号)


バラ園のバラたちは、高貴で美しく風雅を解する彼等のご主人様を、心から愛し尊敬していました。




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