そうして、やがて瞬は、彼の罪を我が身に受け入れることに耐えることができなくなってしまったのである。
吐きそうになって、瞬が口元に手を持っていこうとした時だった。
黒く汚れた爪をした節くれだった手が、瞬の腕を掴んだのは。

「外から来た男はよくて、村の男は駄目ってことはないだろう」
「ぼ……僕は、罪喰いです。僕に触れたら、あなたまで汚れて──」
「たっぷり可愛がってやってから、その罪をおまえに喰ってもらうさ」
そんな暴挙に及ぶ勇気・・を、まさか彼が有しているとは、瞬は思ってもいなかった。
罪喰いを求めてやってくる村の者たちは、視点を変えて見れば、ほとんど全員が罪を恐れる臆病な人間たちだったのである。

しかし、その男は、罪の実行に及んだ。
瞬が身に着けている白い装束を引き剥いで、彼はその手を瞬の脚に伸ばしてきた。

「や……やめなさいっ! 自分が何をしようとしているのか、あなたはわかっているんですかっ!」
「あの毛唐には開いてやってたじゃないか、この脚。綺麗な白い脚だ。すべすべしてて──ふん、好きそうなツラしやがって、本当はずっと前からこうしてほしかったんだろう」

男の手が、自分の太腿を撫であげる感触に、瞬はぞっとした。
氷河の手によるものであれば、それは陶酔を招くだけの行為だった。
だというのに、人が変わっただけで、それは、おぞましさをしか感じさせない行為になる。

瞬が、自分自身ではなく他者に恐怖を感じるのは──それも、心ではなく肉体に加えられるかもしれない危害への怖れを自覚するのは──罪喰いになって初めてのことだったかもしれない。

「あんな毛唐より、俺の方がいいぜ、きっと」
「僕を離しなさい……!」
のしかかってくる男の吐く息が、瞬の顔にかかる。
その生温かさにぞっとして、瞬は顔を横に背けた。

「おとなしくしてろ。おまえは罪喰いだろう。罪と汚れを受けとめるのが、おまえの務めだ」
「…………」
その通りである。
そう思えばこそ、瞬は、これまで聞きたくもない醜い言葉に我が身が汚されることに耐えてきたのだ。
そうすることが、自分が生きていくための唯一の手立てなのだと思えばこそ──。





【次頁】