「あ……あなたが、それで本当に、みんなと地上を救ってくれるという保証はあるの」

「私は神だ。嘘などつかない。地上を汚している人間たちとは違う。私は、あの人間たちよりは君たちに近いものだ」

「…………」

太陽神の確とした返答を得られても――得られたからこそ――瞬は、身がすくんだ。
アベルに突きつけられた地上を救うための条件が、その行為が、どうしようもなく、おぞましいことに思われてならない。

瞬の心を読むまでもなく、その嫌悪の表情で、瞬の葛藤はアベルに伝わったようだった。
「そんなこともできないのなら、軽々しく命を捧げるなどと言わぬ方がいい。汚れるくらいなら死んだ方がましだなどと、ろくに生きたこともない子供の言うことだ」

まるで幼い子供をあやすように告げてから、アベルは喉の奥から短い含み笑いを洩らした。
「いや、君は、実際にまだ子供なのか。この私に物怖じしないので、つい錯覚してしまっていた」

大人ではなく子供でも、神ではなく人間でも、心があり、意思があり、誇りがある。

「さあ、自分は、仲間たちも世界も救えなかったと、他人のために自身を犠牲にすることはできなかったと認めて、すごすご汚れた人間共の世界に帰るがいい。特別の慈悲をもって、君の仲間たちには、この私が直々に崇高な死を与えておいてやる」

その意思や誇りに、神や大人が認めるほどの歴とした根拠がなかったとしても、それは確固として存在するのだ。

「ここに転がっているのも、自らが汚れることを潔しとしない、汚れなき虫けら共か」

それが間違っていたというのなら、自分自身を正しもしよう。
しかし、神の意思に反しているからといって、それを否定されてしまうのは、瞬には納得できることではなかった。
神に、自分たちの信じるもののために命を懸けて闘ってきた仲間たちが虫ケラ呼ばわりされることにも、我慢がならなかった。

たとえ、それが世界と人間とを作った創造神であっても、全てを知り、不可能を知らない全知全能の神であっても、その神が正義を為すものだとは言い切れないではないか。








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