「どうなんだ? 君だけがこんな目に合うのは理不尽だとは思わないか? どうして自分だけが、こんなふうに、好きでもない男の手で──」


『好きでもない男』

瞬の耳許に、もう一度繰り返してから、そんな言葉を繰り返す自分にアベルは微かな焦慮を覚えた。
『瞬が、自分を抱いている男を好きではない』という言葉を否定してもらいたがっている自分に気付かぬほど、アベルは愚鈍でもなかった。

瞬は、だが、神のそんな思いになど気付いてもいない。

「僕が自分で選んだことです」
「君の仲間たちは助けに来ない」
「死んだと思っているんでしょう」
「亡骸も見ずに、仲間の死をそう簡単に受け入れられるものかな」

瞬に疑心暗鬼を起こさせようとしている自分の姑息さに怒りを覚えつつ、だが、アベルはそうすることをやめられなかった。

自分を思い通りに動かせないという経験もまた、アベルには初めてのことだった。








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