「では、あの庭に──」 そう言って、アベルは、神殿の前にある古代ギリシャの別荘風の庭を指し示した。 地面には石が敷き詰められ、その一角に大理石のテーブルと椅子がある。 緑はあくまで調度として庭を取り囲んでいて、それもひどく少なかった。 石の文明が培った美意識によって造られた庭。 ほとんど日本人と感性を同じくしている氷河には、それは死んでいる庭としか思えなかった。 「だが、瞬に声をかけるのは控えてもらう。君たちがここにいることを知ったら、瞬は闘いの場に戻らざるを得なくなるだろう。戻りたくなくても、戻らざるを得ない。私は、瞬にそんな無慈悲な真似はしたくない」 瞬に無理を強いているのは、瞬の仲間たちの方だとでも言いたげなアベルの言葉は、氷河には聞こえていなかった。 瞬を──生きている瞬の姿を、もう一度見ることができる──のだ。 邪神の皮肉の一つや二つ、事もなく聞き流すことができた。 瞬の居場所さえわかったら、そのまま、この伏魔殿から連れ去ることもできる。 否、必ずそうするのだと、氷河は決意していた。 その決意を実行に移すつもりだった。 その石の庭に、瞬の姿を見い出すまでは――。 |