「キグナスが、今日もまた来ているようです」

翌日、アベルはまた、聞き飽きた報告をアトラスたちから受けていた。

「事前に連絡をと言っておいたのに、アテナの聖闘士は礼儀を知らないようだな」
「いかがいたしましょう」

どんなに瞬を求めていても、アテナの聖闘士には人間界を滅ぼしてしまうことはできないという、ためらいがある。
本当に全ての小宇宙を燃やしたなら、一時的になら破れるはずの太陽神の結界を、彼はもうずっと破ることが出来ずにいるようだった。

だから、アベルは昨日までは、氷河を放置しておいた。
自らの妬心を明確に自覚していなかった昨日までは。


「――私のところに連れてこい」

「では、私が」
アベルに一礼して広間を出ていこうとしたアトラスを、アベルは引き止めた。

「3人とも、行け」
「あんな青銅聖闘士ごときに、3人でかかっていっては卑怯になりましょう」
「嫉妬に狂った男は気が荒くなっているだろう。確実に私の許に連れてくるんだ」

どんな些事にも主人に逆らわないようにできている太陽神の聖闘士たちが、その命令に従って、アテナの聖闘士のもとに向かう。


嫉妬に狂っているのは、しかし、アベルの方だった。








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