あの後、一輝の招聘を受けたアベルは、彼の3人のしもべを引き連れて、なんと城戸邸に乗り込んできたのである。


「瞬、そんなバカ共は相手にするな!」

不機嫌を極めた氷河の怒声を、瞬は笑顔で受け流した。
瞬は、氷河とアベルたちのやりとりにすっかり慣れてしまい、今では僅かな困惑すら見せなくなっていた。

「自分に自信がないから、そんなことを言うわけだ」

いきりたつ氷河を鼻で笑ってみせてから、アベルは瞬の方に向き直った。

「瞬、私は、君と過ごした情熱的な夜がいまだに忘れられない。氷河に飽きたら、いつでも私のところにおいで」

「き……貴様―っっっ !!!! 」

瞬のいれたお茶に手もつけず、かくして氷河とアベルは、今日も、数時間で終わる千日戦争に突入である。



「一輝……。あなたったら、何てことを教えてくれたの。主神ゼウスをしのぐ力を持つとまで言われていた至高の太陽神が、あれじゃ、ただの軟派なヤンキーだわ」
その目で実際に見るのでなければ到底信じ難い兄神の変貌に、沙織が呆れ顔でぼやく。

「楽しそうだからいいじゃないか。氷河をいたぶるのは、俺たちに与えられた唯一の娯楽だからな。俺も強力な同志を得られて頼もしい限りだ」

「…………」
白々しく言ってのける一輝の横顔を見て、沙織は少し切なげに微笑した。

いちばん大切な人を、他の男の手に委ねるしかなかった男たちの無念を思うと、沙織も本気で彼等を責める気にはなれなかった。

望む通りの愛を手に入れられない男たちのスケープゴートに選ばれてしまった氷河を気の毒そうに見詰め、そして、沙織は溜め息をついたのである。
無論、望む愛を手に入れた恵まれた男に、同情心までは抱かなかったが。




初夏のテラスには太陽の光があふれていた。
哀しいほどに美しく、眩しい光の乱舞。


地上は今日も暖かく、そして、平和だった。














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