義務教育を終えるなり、俺は一人暮らしを始めた。
どこぞの経済団体の長に祭り上げられている糞親父は、母親のいないカワイソーな息子の我儘をしぶしぶ聞くような顔を世間にさらしてみせながら、体良く不肖の一人息子を自宅から追い払ってくれた。
あの男は、俺が聞き分けのいいオトナになるまで、息子の素行不良を見ているのも面倒らしい。


ご立派なマンションの部屋の玄関のドアを閉じると、俺はすぐに瞬の手首を掴みあげて、その手から鞄を取り落とさせた。
そのまま瞬を引きずるようにして、廊下の突き当たりにある部屋のベッドに、瞬を放り投げる。
そして、俺は、瞬の身体を無粋に包んでいるものを、さっさと全て引きはがした。

こういう時、瞬の感じやすい身体はひどく便利だ。
俺が瞬のYシャツのボタンを外すために動かす手の動きにすら、瞬は見事に反応する。
俺が瞬に身体を重ねる頃には、瞬の心臓の鼓動は既に常態のそれじゃなくなっていた。

瞬の身体のあちこちに、せわしなくキスをして、俺はお決まりの問いかけを口にする。
「おまえは誰のものだ?」

瞬は、喘ぎながら俺の名を声にするが、それが真実そう思っているからなのか、俺がそう答えないと機嫌を悪くして乱暴になることを知っているからなのかはわからない。
そのやりとりは、ただの遊びだ。
瞬を俺に従わせるための、セックスの端緒。

切なくて、苦しい、ただの――遊び。

「なら、自分から開いてみせろ」
「そんなこと……」

“そんなこと”すら、瞬は自分からは絶対にしない。
これまで何度も俺の目に犯されてきた場所を俺の前にさらすことを、毎回いちいち恥じらってみせる。
その潔癖な頑固さに、俺が苛立つことは知っているはずなのに。

「俺のものだっていうのは口先だけか」
まるで脅すように俺が言うと、瞬はおずおずと膝を立てて、身体を開き始める。
その動作の緩慢さに焦らされている気分になって、俺は結局待ちきれずに、瞬の足首を掴みあげた。

「なんで、いつまで経ってもそんなふうなんだ、おまえは。俺が恐いわけじゃないだろう」
瞬の否定の言葉を期待しながら、だが、俺は、瞬が俺を恐がってることを知ってる。

毎日、飯を食う回数より多く繋がり合ってたら、女だっていい加減、羞恥なんて忘れるもんだ。
それを、瞬は、毎回毎回いちいち処女みたいに頬を染めて見せる。

「おまえがそんなだから、俺はますます乱暴になるんだ」
俺は、瞬の中に最初から俺自身を突き立てた。

一瞬、瞬は全身を硬直させたが、なにせ、ボタンを外す手にも感じてるような瞬の身体は、すぐに俺を楽しませ始めてくれる。
瞬の身体は、まるで思考と噛み合っていない。
身体はいつも俺を喜んで受け入れてくれる。

瞬をそんなふうにしたのは俺だし、瞬は俺しか知らない。
俺以外の誰も、瞬には触れたことがないはずだ。

俺は、瞬を独り占めできていて、瞬は俺の命令には絶対服従する。

なのに――俺は満足できなかった。


いつもいつも、今度こそ一つになれたと、本当に瞬を自分のものにしたと思うのに、最後に瞬は必ず俺から離れていく。
そう感じる。


瞬の身体と心の二つとも。
それが無理なら、身体だけでも俺なしではいられないようにしたくて、俺は、幾度も瞬を攻め続けた。





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