瞬の眠りが深まったのを見計らい、氷河は、自分の腕に絡みついている瞬の指を1本1本外して、寝台を抜け出ようとした。 しがみついていたものから引き離された指が全てシーツの上に落ちると、今度は瞬の甘い吐息が氷河を誘惑し始める。 瞬を見詰めていたいと訴える目をあらぬ方向に背けることはできても、吐息の誘惑は氷河の身体全体にまとわりついてくる。 それは、まるで、小さな白い花をつけた蔓花の蔓のようにじわじわと、だが的確に、氷河の理性ではなく欲心を目指して伸びてきた。 ほとんど背を向けかけていた寝台を、反射的に振り返る。 次の瞬間、氷河は、瞬の唇に、乾きかけていた自分の唇を押しつけていた。 薄く開かれている瞬の唇をこじ開けるようにして、その奥まで侵そうとする。 氷河は、自身の身体を潤す水が欲しかったのだ。 「ん……」 氷河が、その誘惑に屈するのを待ち望んでいたかのように、瞬の唇は優しかった。 瞬の肌の香りは清潔そのもので、もう、あの汚らわしい時間の痕跡は全て消えている。 今、氷河の唇を受け止めているのは、以前の――もとのままの瞬だった。 白い雪花石膏のような肌は、他の男に触れられたことなどないのだ。 このまま、めちゃくちゃにしてやりたかった。 瞬は、あの悪夢の時間、既に少し錯乱していたらしく、現実にあまり正気で向かい合っていなかったようだった。 しかも、瞬自身が忘れたがっていた。 その気持ちを操作するのは容易だった。 ここで、瞬を犯し、それを夢だと思わせることも可能かもしれない。 そんな卑劣な考えをさえ、氷河は抱いた。 だが。 「氷河……」 眠っている瞬の唇から、彼が信頼しきっている男の名が発せられる。 できるわけがない。 そんなことができるはずがなかった。 瞬の首筋に伸ばしかけていた手を、氷河は必死の思いで引き離した。 王位継承者選定の日が近付いてきていた。 |