「氷河……っ!」
「ここにおります」

目を閉じて作った薄闇の向こうから、瞬の不安を和らげようとする氷河の声が聞こえてくる。
だが、瞬が求めているものは、そんなものではなかった。

「違う……そうじゃない……そうじゃないの……」

「…………」
側にいるだけでは、瞬はもう満たされないようになってしまっているようだった。
それが誰のせいなのか――瞬を蹂躙したあの男たちのせいなのか、瞬の中で彼等に重ねられていた男のせいなのか、それとも、今、瞬の上に注がれている自分の視線のせいなのか――氷河にはわからなかった。

汚したくはない。
今になってそんなことを考える自分自身が滑稽でならなかった。

否、そうではなく――結局、自分は、瞬を傷付けたあの男たちと同じなのだと思わざるを得ないことが、氷河は不快だったのだ。


「……どうしてほしいのです。私は、瞬様のしもべですから、瞬様の望むことはどのようなことでも叶えてさしあげます」
あの男たちとの唯一の違いは、瞬が氷河にそれを求めているということだけだった。

瞬が、首を横に振る。
口では言えないらしい。

「氷河……!」
氷河の名前だけを繰り返し唇にのぼらせていた瞬の息が、大きく荒くなっていく。
それ以上、氷河の視線にさらされているだけの状態に我慢できなくなったらしい瞬は、最後には自分の望みを言葉にした。

「氷河、僕に触って! 早くっ」
「瞬様」
「僕を放っておかないで、僕をどうにかして、早く……!」

「…………」
殊勝に葛藤している振りをしながら、結局のところ、最初から目で瞬を犯していた自分自身に、氷河は気付いた。

「瞬様がそうお望みでしたら」
そう告げて、ふわりと瞬の身体の中心に触れ、それから、氷河は、瞬の肌を掠めるようにその手を素早く首筋にまで運んだ。

「……っ!」
瞬が、声にならない悲鳴をあげ、全身を硬直させる。

「そのように……お身体を緊張させていらしては――」

一瞬身体を撫であげられただけだというのに、瞬は声が出ないらしい。
瞬は再度大きく、そして幾度も首を横に振った。

瞬が欲しがっているのは確かだった。
父を亡くしてからこれまでずっと、庇護者のように頼りきってきた男の視線に緊張させられ、高ぶらされて。

この感じやすさなら、身体を汚すことなく言葉だけで、瞬をこの苦痛から解放してやることは容易にできそうだった。
むしろその方がいいのではないかと氷河が思い始めた途端、ふいに瞬がしゃくりあげ始めた。






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