「公爵は王子であることの条件をご存じか」
「王様の血を引いていること?」

瞬の、瞬らしくもなくつまらない答えに、ハーデスは僅かに口許を歪めた。
「王は国を憂い、民から畏れ敬われなければならない。時には国益のために冷酷なこともしなければならないだろう。が、王子の座には」

彼は、氷河を押しのけて、瞬の前に立った。
「国と民を愛していて、幸せにできる者が就いているのがいちばんだと思う。もちろん、可愛らしくて民に愛されることが第一条件だが」

氷河は、自分と瞬の間に割り込んできたこの年下の国王を、殴り飛ばしてやろうかと思ったのである。

「周囲を見渡してみたところ、公爵殿しかいないんだよ。母も公爵殿が気に入ったようで、お会いしたいと言っている」

「王妃様が……」
気の毒な女性のことを持ち出された瞬の瞳が、切なげに潤み始める。

うまく瞬の弱みを突いてくる――と、ハーデスの言い草を苦々しく感じながら、しかし、氷河は、それが瞬にとって最も良い道なのかもしれないと思い始めていた。


「僕は……氷河が一緒なら……」
心配そうに、瞬が、ちらりと、彼の従者に視線を投げる。

新王の振舞いに立腹しつつも、氷河は、瞬に微笑を返すことしかできなかった。

「どこまででもお供いたします、瞬様」
氷河が瞬の前に腰を折る。


愛らしい笑顔を浮かべた王子様が、氷河に手を差し延べた。






Fin.






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