車の中でも、僕はずっと無言だった。 僕の家が見えてきた時、 「僕は誰の代わりなの」 と尋ねた時以外は。 ──氷河からの返事はなかった。 庭には入らず、門の前で僕を降ろすと、氷河は、『さようなら』の代わりに、 「すまなかった」 と低く言った。 そんな言葉が聞きたかったわけじゃない。 僕は、何も言わずに、門の脇のインタフォンから守衛に門を開けるように言い、僕がそうしているうちに、氷河は車のドアを閉じて、ハンドルを握りなおしていた。 もしかしたら、もう会うことはできないんだろうか――？ ふいに僕はそんな不安に捕らわれて――たとえ、僕自身が氷河に愛され求められているのでなくても、会うのが辛くても――僕は、氷河に会えなくなるのは、もっと嫌だった。 僕は、弾かれたように後ろを振り返った。 そして──その惨劇を見ることになった。 僕の目の前で、氷河の車は、突然ものすごいスピードでＵターンをし、今来た道を直進して──僕の家の隣の区画の家の塀に激突した――んだ。 頑丈なＳクラスのベンツのフロント部分が潰れていた。 まるで安いプラスチックでできた玩具の車みたいに潰れて──いた。 いったい何が起こったのか、僕にはわからなかった。 |