気弱そうな目で懇願するだけだったキアラの表情は、日を追うごとに切羽詰ったものに変わっていった。

そうして、ある夜。
身体の中を氷河にめちゃくちゃにされ、身の内に焼かれているような痛みを抱え込んだまま、そのことに満足して眠りに就いた僕に、燃えるような目をしたキアラが、なじるように言った。
「僕の氷河をあんなに苦しめて……!」
――と。

何を言ってるんだろうと、僕は思った。
何百年も──氷河を苦しめてきたのは、彼の方じゃないか。
僕は、氷河をキアラから解放してやろうとしているんだ。
氷河だって、本当はそれを望んでいるはず。
だから、会うたびに、こんなに激しく僕を求めてくるんじゃないか。

僕が、キアラを無視するのをやめて、彼に反駁しようとした時だった。
キアラの細い腕と指が、僕の首を掴みあげるようにして絡みついてきたのは。

「その身体、僕にくれないのなら、力づくで奪い取る……!」

振り払おうとしても、夢の中のキアラの腕は、そもそも実在していない。
その場に存在していないものを振り払うことは、僕にはできなかった。





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