シュンの決意に、シュンの兄よりも強く反対したのはヒョウガだった。
二人が離れずにいられる方法が見付かったと言われた時の彼の期待と喜びは、シュンからその方法の説明を受けるにつれ、激しい憤りに変わっていったのである。
「シュン! おまえは、俺の父が母をあんな屈辱的な場所に引きずり出さなかったことを愛だと言ってくれたのに、その言葉に反することを俺にしろというのか!」

「でも、じゃあ、他にどうすればいいの。僕はヒョウガと離れたくない。ヒョウガの側にいたい。ヒョウガはそれでいいの。ヒョウガはきっと帰国したらレッジョ公国から出してもらえなくなる。僕もきっと似たようなことになると思う。それだけはいや。ヒョウガともう会えなくなるなんて、僕はそれだけは嫌なんだ……!」
「……」
シュンに涙ながらに訴えられたヒョウガは、シュンにその決意を翻させるための言葉を見付け出すことができなかった。

野心はない。
そんなものは、シュンのためになら いくらでも何度でも捨て去ることができると思い、ヒョウガは実際に捨てた。
野心どころか、ヒョウガは、シュンのために情欲さえ捨てたのである。
愛する人以外に欲しいものはなく、二人はただ互いから離れられないだけ、共にいたいだけなのだ。

神への信仰を試されて病を得、財を失ったヨブでさえ、その報いとして最後には神の祝福を与えられた。
恋のためにすべてを捨てようとしているシュンには、神の祝福さえ与えられないというのに。
何を捨てても離れられない人と離れずにいたいと望む心が罪だというのなら、神はなぜ人間に心などというものを与えたのだろう。
シュンのために自らも神を捨てる覚悟で、ヒョウガはシュンの望みをれることを決意した。



■ ヨブ : 旧約聖書『ヨブ記』の主人公



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