瞬は、嫌々に闘っている。

いつも誰かを思いやり、いつも優しく輝く瞳、瞬はいつでも仲間に心配をかけまいと明るく振舞っている。

それでも闘いの中に身を置き、その狂気を恐れ、常に人間を傷付けたく無いと怖れていた瞬は、ある時初めて敵を倒した――殺した――経験のショックから立ち直れずにいた頃があった。
激しい後悔に打ちのめされ、自分の力に震えおののき、それでも、闘いから逃れることはできずに駆り出された闘いの場で。


俺には、彼に――瞬に――優しい言葉や腕をかけてやることも、休ませることも、闘いから逃すことも、出来ずにいた。
俺の手はいつも誰かの血で染まっていた。 この腕で瞬を支えることなどできるわけが無い。
戦場は、常に狂気と悲鳴と血にあふれ、常軌を逸していた。
正常な精神などとうに麻痺し、眼前の敵を足元に這いつくばらせるためだけに集中し、小宇宙を燃やし、なんの躊躇いも無く拳を振う。
そう、目の前の敵が只の物体になるまで……。 狂気の中の唯一の自我――1秒でも早く瞬の元へ――を生き残るための支えにして…………。


瞬が敵との闘いにとまどう時、
とどめを刺すのにとまどう時、
俺は、瞬を背後に回し、敵と対峙する。

そして、何時果てることの無い闘いに怒りを込めて、瞬をまどわす相手に憎しみを込めて、攻撃の間を与えず、肉隗に変える。

そんな時、瞬を戦場の中でしか、しかも、こうする事でしか、瞬を守る事が出来無い自分に憤りを感じ、憎悪する。




「あ……ありがとう、氷河。ごめんなさい……」

礼を言う瞬は――屍骸になってしまった敵をではなく、俺に――(何時からか)畏怖の声と表情を向ける。
「別に。好きでやっていることだからな」
それは――瞬を守る――これ以外の他意はなかった。
しかし傍から見れば、「聖闘士が聖闘士を守る」……こんな無様なモノは無いと瞬のことを嘲笑し、俺を愚別するだろう。
俺は、とまどう瞬にかけてやれる言葉も見つけられず、そしてここが戦場であるという理由に託けて、足早に立ち去るしかなかった。








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