そして、瞬は、何も言うことなく俺の目の前から逃げていった。

雨の中に。

綺麗で哀しい色の、でも激しい雨。
雨音はこの手にかけてきた敵の憎悪の悲鳴に聞こえ、激しく俺を責めたてる。


強い雨。
この雨は、本当は俺を責めることなく逃げていった、俺を哀れむ瞬の涙なのかもしれない。


……俺は、やはり瞬を守ることは出来ないのだろうか?
呆然と佇むしかない俺の背中から声が聞こえてくる。
「氷河……、最近の瞬、誰の前でも笑わないの知っていたか?」
「え?」 紫龍に視線を向けようと踵を返すと、いつの間にか自分の懐に飛び込まれたように星矢が目の前にいた。
その次の瞬間、腹部に鈍い痛みと、怒声が、飛び込む。たしなめる紫龍の声も星矢には届かない。
「おまえが守りたかったのは、今みたいな“笑わない瞬”なのかよ!!」
先ほどの胃痛あり、その場に蹲りそうになるのを、星矢は俺の襟元を掴みそれを許さない。
「俺は強くなりたい! 上手く言えないけど、俺ワガママだから、待つのも追いかけるのもヤダ! だけど、好きな人たちが傷ついたり失ったりするのはモットヤダ!!」
「弱さゆえの不安……けれど、俺たちの日々の闘いは、それを乗り越える為の試練でもあるんじゃないのか?」


俺たちは、闘うもの全ての想いと誇りを、心と拳に刻み付けて生きているのだから――
――だから、闘いを、敵を、否定するな!
――その先にある希望や理想を信じつづける意志があるのなら。


「おまえはどうなんだよ! おまえはどうしたいんだよ! おまえの覚悟を瞬に言わなくてどうするんだよ!!」
星矢は、唖然とする俺の襟元を放し、力強く押す。
「行けよ!! 瞬を取り戻して来いよ!!」



闘いという現実の中、その本質を見失い、その先にあるものすら否定してしまった俺の心。

瞬の持つ優しき思想その存在、共に抱きつづけてきたはずの自ら理想をも、殺意と狂気に捨ててしまったのか――。








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