真っ白な世界。
―僕は一体なにをしていたんだっけ?―
目を開くと黄色。
「大丈夫か?」
瞬が見た黄色は顔を覗きこんでくる氷河の髪だった。
「僕は、、、」
そう言って起きあがろうとしたが起きあがれないことに気がついた。
「起きあがれない、、、。」
そう言うと氷河は含み笑いをしながら
「そうだろう。」と言った。それが彼が瞬に見せた初めての笑顔だった。
瞬が改めて辺りを見渡すと、床にはいつのまにか布団が敷かれ、自分たちはそこに寝そべっている状態だった。
「あの、これは、、、?」
おずおずと氷河に説明を求めると彼はとても晴れやかな顔で答えてくれた。
「いつまでも床に寝かせておくわけにもいかなかったんでな。勝手に敷かせてもらったぞ。いけなかったか?」
「いえっ、そういうわけじゃなくて、、、。」
―あれが「口封じ」なの?―と、言おうとしてあまりの恥ずかしさに顔を背けた瞬は、散らばった衣服に紛れて見覚えのある布を見つけ出した。
「あ、あれは昨日、、、」
思わず声に出すと背後の氷河が、
「そうだ、昨日お前に助けてもらった白鳥はオレだったんだ。お礼参り、もとい恩返しにきたんだか瞬、お前に魔法陣を見られてしまってな、、、」
「それで、、」 ―あんなことを。―
と、思ったがもちろん声には出さない。しかし真っ赤な顔を見れば誰にだってわかりそうなことだ。そんな瞬の髪を自然な仕草で撫でながら自身たっぷりに氷河は言い放った。

「俺と一緒に来てもらおう。」
「…… ……  。」瞬の大きな瞳が点になる。
「えっええーーーーーー!!!」


刹那、日本にシベリア寒気団が雪崩込んできた。

「オレは自分の正体を知られたものとは離れられないんだ。」
どんな昔話か知らないが、そんな話は聞いたことが無い。
でも、自身が言うのだから本当なのかもしれない。
そしてさらに追い討ちをかけるように、
「オレには時間が無いんだ。」

もう渡りの季節でした。

瞬には氷河の言っていることが本当なのかどうか、
そして彼の正体が人間に化けた白鳥なのかそれとも白鳥に化けた人間なのか
さっぱりわからなかったけれども、
自分には選択の余地なんて無いことに気付いていた。


はっきりしていることには、
暫くの後、一輝が息せき切って戸を叩いたときには彼を迎えるものは誰もいなかった。と、いうことである。

しかし、一輝は瞬の行き先を知ることができた。
なぜなら床に置いてあった一枚の紙切れが、

キグナスの聖闘士カードだったから・…

一輝よ何故帰るのか?
 そこに瞬がいるからだ。

従って、一輝にはもう帰る家などありはしなかった。
一考の余地もなく彼は向かうべき所を悟った。
すなわち、北へ。






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