その雨は細く、しかしながら永らく少年の身体を打ち続けていた。
彼は濡れゆく身体を気にもせず、人為的に形の整えられた灰色の石の前にただ佇んでいた。
その前日に彼の友人の元に届けられた手紙が彼をここへと連れて来ていた。
少年が緋色の紙を見たのはそれが初めてではなかった。
ちょうど去年の今頃、梅雨の時期に彼の兄が国からの赤紙を受取っていたから。

「こんな紙切れ一枚で、」

吐き捨てるように兄が呟いたのを少年は記憶している。
兄が彼の前から消えたのはそれからしばらくしてからのことだった。
兄のみならず、緋色の紙が送られてきた人は全て、どこか遠くに行ったきり帰って来はしなかった。

否、帰ってはきたがそれは兄の名を冠した白い木箱だった。
親類は涙を流しながらそれを「一輝」と刻み込んだ石の下にしまいこんだ。
今、少年の目の前にある石だ。
聞くところによると、特攻だったという。
それは何かと問うと、飛行機ごと敵に突っ込む攻撃方法だと誰だったかが教えてくれた。それ以上知ろうとは思わない。
あの豪胆な兄のことだ、チリと消えたときはさぞ美しかったことだろう。
爆破して死んだはずなのに遺骨があるなんて、よく考えたらおかしなことだと少年は思っていた。
だから、箱を前にして皆が泣いている中、唯一人泣かなかった。
それを強さと勘違いして誉めてくれるものもあったが見当違いも良い所だ。
少年はそう感じていた。






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