1945年8月、世界中を巻きこんで幾千万もの命を奪った大戦はその幕を下ろした。
あの空襲から、たった二ヶ月後のことだった。
「ほんに…あとたった二ヶ月のことだったのに…可哀想に…」
目頭に布を当てて叔母はそう言い、
「あんたは生きとってくれたのに…」
それっきり黙ってしまった。

一輝は奇跡的に泥沼の大戦から生還した。
飛行機の故障で特攻の前に海面に不時着し、そのまま基地で終戦を迎えた。
彼は帰宅するとその足で弟の消えた場所へと赴いた。

結局、二人の遺体は発見されなかった。
残骸の中には幾人もの遺体に紛れて氷河のものと思われる装備一式があったのみである。
それでも周囲は二人を死んだものと判断した。

「きっと、二人はシベリアに行ったんだよ。氷河行きたがってたもの。」
瞬の最後の目撃者である星矢はそう言っていた。一輝もそう思っている。
シベリアは氷河の母方の祖母の国である。
一輝は瞬が幸せならばどこにいても良かった。

「気が向いたら顔を見せに来い。」
―俺はいつでもここにいる。―
そう呟くと、一輝は自分の墓の取り壊しを見物しに歩き始めた。

頬にあたる風はもはや夏のものではなかった。
季節は、はやくも秋をむかえようとしていた。









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