一・ 旅道連 世情




ここはかの中華帝国の辺境の村。今日は天気もいいので皆仕事もはかどります。
そんないつもと同じ平和な午後のことです。

「ちょっとあんた、どこに行くだね。」

樵はそう言って旅人を呼びとめました。
「はい、なんでしょう?」
そう言って降りかえった旅人は亜麻色の髪と瞳をした誰もが振り返るような美少年でした。
その姿と雛には稀なる優美な仕草にしばし見とれていた樵はふと我に返ると大きな声で言いました。
「なんだじゃねぇ、あんたこの山を越える気かい?」
少年は何がなんだかわからないといった表情で答えました。
「ええ、そうですけど…」
「悪いことは言わねぇ、止めときな。」
「どうしてでしょう。」
そう、少年は質しました。すると樵は
「この山には恐ろしい妖怪がいるんだ。あんたなんか美味そうだから頭っから食われちまうぞ。」
と、少年を怖がらせるようなことを言いました。
「まさか」
ところが少年はたいして驚いた様子はありませんでした。なぜならこれまで旅してきて色んな所で同じようなことを言われてきたからです。でも結局妖怪が出たことなんてありませんでした。 大抵が迂回させるか護衛と称して金を巻き上げようという魂胆で、現金収入の乏しい第一次産業の…まあ、樵さん達のいいお小遣い稼ぎになっていたのです。
そんなわけでこの少年、名前を瞬といいます。は、動じること無く、
「そうですか、気をつけて行きます。ありがとうございました。」
とだけ礼を言って再び歩き出しました。

「どうなっても知らんからなぁー。」
背後から樵の声が聞こえてきましたが、その為に立ち止まるということはありませんでした。