風が瞬の髪をなぶり通りすぎてゆく。
 切り立った崖のその上に立ち、瞬は遠くを眺めていた。

『一緒に行こう?』
『何処までも、一緒に行こう、ずっとずっと、一緒に行こう』
 太陽の光のようにひかるあのひとの金の髪。
 誰の名を呼ぶときに一番その笑顔が輝くかなんて知っていた。
『瞬』
『氷河』
 はじめて寝顔を見てしまった日。
 その瞼に触れたいと。───キスしてみたいと。
 思った、あの日、は。
 ───遠く。


「好きだったけど」
 口元に笑みさえ浮かべ、瞬は風に語る。
「だけどそれはもういないひと」


 永遠にいないひと。
 それはあのころのぼくときみ。






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