瞬が、“彼”を自分自身として認め、自分の内に取り込んでしまおうと決意した時、“彼”は、氷河の表層からも消え始めた。


“彼”の姿がすっかり消え去ると、瞬の前には、瞬と同じように、“彼”を自分の中に取り込んでしまった氷河の眼差しがあった。
これまで瞬が見たことのあるどんな氷河の瞳よりも、それは明るく、ナイトスタンドの光の加減で天青石めいてさえ見えた。


氷河が、まるで忘れていた秘密を思い出したような表情で、瞬に告げる。
「俺は──ずっと、おまえが好きだった。おまえが、北の海の底にいるあの人の話を、笑わずに聞いてくれたあの時から」

瞬は、隠し通してきた秘密を打ち明けるように、氷河に告げた。
「僕はずっと、氷河に愛されたいと思ってた。そうしたら、氷河は、死んでも僕を忘れずにいてくれると思ったから」


秘密というわだかまりから解放されると、氷河にも瞬にも、それがこれまで秘密だったこと自体が不思議に感じられた。

「なぜ、言えずにいたんだろうな」


「……僕のことをずっと思っていてほしいなんて望むことは、卑怯で図々しいことだと思ったから。それは、人に求めていいようなことじゃないと思ってたから」
「愛したいなんて、いつも誰かを犠牲にして生き延びてきた俺には、おこがましい望みだと思っていたからだ」


互いにそう告げ合えるようになるために、“彼”の手助けが必要だった。
それは、言葉にしてしまえば、愛情を感じている者の言葉なら、認め合える弱さであり、可愛らしい我儘でしかないものだったのに。



“彼”は、跡形もなく二人の中に溶けて消えてしまっていた。

神と呼ばれることもあり、魔と呼ばれることもある、虚飾を取り払った自分。
人は誰でも、その内に“彼”を飼っているのだ。





Fin.






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