“善き行ない”――それが何なのかを、実はヒョウガは知りませんでした。
ですから、ヒョウガは、これまでシュンがしていたことを、ひたすら真似ることにしたのです。

シュンがそうしていたように、飢えている人には自分の食べ物を与え、寒さに凍えている人には自分の衣服を与えました。

自分の心の中から自然に優しさを産むことのできなかったヒョウガは、自身を削って人を助けることしかできなかったのです。
ヒョウガは、自分の持てるもの、自分に備わっている力を、他の人に与えることでしか“善き行ない”ができなかったのでした。

それでも、神の庭に、ヒョウガの花は育ち始めたようでした。
ヒョウガが、自分の花の様子を確かめたいと願うと、まるで幻影のように、その花はヒョウガの眼前に姿を現しました。


村人たちは、突然姿を消したシュンに代わるように人助けを始めたヒョウガを、最初は訝っていました。
けれど、彼等は、やがて、そんなヒョウガを自分たちの中に受け入れ、ヒョウガに感謝の言葉を返してくれるようになっていったのです。

でも、ヒョウガは、その“善き行ない”を、ただシュンのためだけにしていました。
村人たちの感謝なんていらなかったのです。
なのに、報いを求めようとしないヒョウガに、なおさら、村人たちは感謝するのでした。





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